江藤勲の音楽夜話/第七夜

語り/江藤勲 聞き書き/青山弦

ベーシスト江藤勲が語る音楽のあれこれ

素晴らしい作曲家たちと〝最強のリズム隊〟

いまでこそ〝スタジオ・ミュージシャン〟という言葉は、誰でも知っているが、60年代には、まだまだ一般的ではなかった。

理由のひとつは、レコードジャケットを見ても、歌手と作詞作曲家の名前はあるが、スタジオ・ミュージシャンがクレジットされていることは、当時はほとんどなかったからだ。どれだけヒット曲のレコーディングに関わっていても、スタジオ・ミュージシャンの顔や名前が世間には知られることはなかった。

そうした境遇を嘆き、「いつかはセンターで演奏したい!」と願う仲間は数多かった。しかし、私は違った。数多くのレコーディングに立会い、スタジオ・ミュージシャンとして、さまざまな楽曲に関わるほどに、〝サイドマン〟の奥の深さを知るようになったからだ。

いちばんの契機は、才能豊かな作曲家たちとの出会いにあったと思う。68~69年だけでも数多くの出会いがあった。あまりの忙しさに、個々のレコーディングの詳細は、もはや記憶の外だが、私の年賦に興味を抱いてくれた音楽ライターのガモウユウイチ氏のリストから、その一部をひろい挙げてみる。

  • 『恋のロンド』(ザ・ピーナッツ) すぎやまこういち/作曲 宮川泰/編曲
  • 『ブルー・ライト・ヨコハマ』(いしだあゆみ) 筒美京平/作曲
  • 『ある日渚で』(加山雄三) 弾厚作(加山雄三の/作詞・作曲者名義)
  • 『水色の季節』(浅丘ルリ子) 三木たかし/作曲
  • 『愛の園』(布施明) 平尾昌晃/作曲
  • 『乙女の祈り』(黛ジュン) 鈴木邦彦/作曲
  • 『青い月夜』(奥村チヨ) 井上忠夫/作曲
  • 『薔薇のいざない』(笠井紀美子) 村井邦彦/作曲
  • 『グッド・ナイト・ベイビー』(ザ・キングトーンズ) むつひろし/作曲
  • 『人形の家』(弘田三枝子) 川口真/作曲
  • 『長崎は今日も雨だった』(内山田洋とクールファイブ) 彩木雅夫/作曲 森岡賢一郎/編曲
  • 『雨に濡れた慕情』(ちあきなおみ) 鈴木淳/作曲 森岡賢一郎/編曲 などなど。

なかでも筒美京平氏からは、後もレコーディングのたびに、指名のようにしてスタジオに呼んでいただいた。折しも、筒美京平(作曲)&橋本淳(作詞)の黄金コンビが、GSの多くの楽曲を手がけていたころだ。「グループサウンズ」はバンドだから、本来は各楽器のパートが自前でいるはずだが、〝楽器はお飾り〟のようなバンドもなかにはあって、レコーディングの際には、我々が演奏することがほとんどだった。

特にリズム隊は、ドラム/石川晶、ギター/杉本喜代志、ベース/江藤勲が、どのスタジオ収録にも集まるようになり、いつしか〝最強のリズム隊〟と呼ばれていた。

出合った作曲家の方々を数えあげればキリがなくなるが、ほんとうに素晴らしい人々と、日々、仕事をしていたのだ、と改めて思う。この他にも、中村八大氏、浜口庫之助氏、いずみたく氏といった、錚々たる作曲家がおり、当時の日本の歌謡界が、いかに洗練され、高度な音楽を目指していたのかがわかる。

譜面を読める読者なら、是非、当時の日本の楽曲譜を読んでいただきたい。戦後のジャズに端を発した日本の歌謡界は、1960年代には独自な音楽シーンを生み出すまでになっていた。