私の交友録 8.

成毛 滋

日本にブリティッシュ・ロックを正しく導入したのが成毛 滋である。私は彼とは長い間親交があったが、実際に会った回数はさほど多くはない。

昔々、昭和36〜7年頃の話、T.I.C.(東京・インストゥルメンタル・サークル)というギターをメインにベンチャーズの音楽を演奏する走りのグループ集団があった。いろいろな大学のサークルバンドが中心で、その当時、成毛氏は慶應大学の『フィンガーズ』のリード・ギターを担当していた。成城大学の『マックス・フォー』というグループでは、後にビレッジ・シンガーズのリーダーとなった小松がリード・ギターを弾いていたし、先年亡くなられた三笠宮寛仁親王は、学習院大学の『パニック・メン』でサイドギターを弾いていて、シャープ・ファイブの三根さんもどこかにいた様に記憶しているが、私の記憶は歳とともに怪しくなっているからもし違っていたら申し訳ない。立教大学の『ビートニクス』はT.I.C.のリーダー的存在で、そのグループのバンドボーイに、細野晴臣がいた。ある時細野君にT.I.C.の話をした際に、彼は『ビートニクス』でアンプや楽器運びをしていたと言っていたのでこのあたりの記憶は正しいと思う。他に下町の『ムーン・ドッグス』とか、『チャレンジャーズ』という私の先輩でアメリカ留学帰りの岸辺さんのグループ(ここからブルージーンズ、サベージに入った人がいる)、他にももう一つ二つあって、有楽町のビデオ・ホールで定期的に演奏会を行なっていた。

成毛氏は、当時からいつもいち早く新曲をコピーしては見事に弾きこなしていて、ギターもT.I.C.の中で一番上手かった。

彼と再会したのは、私がグレコギターの監修を手伝い始めた頃だから昭和46年頃で、松本の富士弦楽器という会社でエレキ・ギターの名器?“ニセポール”を成毛氏の強烈な思い入れで作り上げる事になった時だ。グレコ EG360、EG420、EG600、彼の“レスポール”ならぬ“ニセポール”は当時の若者に浸透して爆発的にヒットし、何十万本という第二次エレキ・ブームのロングセラーギターとなった。

このギターはランバコア(ベニア板)でボディーを作ったディタッチャブルのギターだが、若者のギターマインドを取り入れた結構まとまった作りのギターであった。フィードバック奏法にマッチするハンバッキングマイクもCBSソニーのディレクターだった堤さんと成毛氏が音創りをして、ウーマントーンやらをかき鳴らせる、時代を象徴するギターであり、このギターを弾くと誰でもジミー・ペイジになれるという感じがあった。

成毛氏のギターに対する考えは、ナローネック、ショートスケール、つまり彼の手は普通の人より大きくないので弾き易いものが必要であり、そういう意味で“ニセポール”は正に彼の要望にぴったりのギターだったようだ。彼はブルジョアの御曹司だったが、どうも高級な高い値段のギターには興味が無く、安いギターで高級なギターを弾く人を弾き負かすことが好きだった。

その後彼と“Aロック”という、エレキ・ギターのコンテストみたいな催しをしたときの話。彼のアイデアでイギリスのコンサートと同じ様にマーシャル・アンプを4台並べ、PAで音を出すというアマチュアにとっては夢のようなステージをセッティングし、この催しは全国展開して大成功を収めた。同時に日本のエレクトリック楽器の品質が世界のトップレベルになるきっかけをつくり、ここから多くのミュージシャンも誕生した。

彼の写真は数少なく、ウェブで成毛 滋と検索すると eGRECOという項目が出てくる。そこに掲載されているのが冒頭の写真だ。一番成毛氏らしいものなので、是非見てもらいたい。その当時の彼は、「椎野さん、オレはぶん殴ってやりたい奴がいるんだ。」と空手を本気でやっていて、ヌンチャクを振り回していた。彼の頭髪は短く刈られ、写真のあの長い髪は、実はカツラであったと記憶している。

成毛 滋の演奏を、「コピー・ギターで音楽性が無い」とか「指が早く動くだけだ」などとウェブに書き込みをする奴らがいるが、その時代の西洋の新しい音楽の波にいち早く乗り、オリジナルと同じ感覚でギター音楽を伝え演奏した彼の功績は大きい。楽器に対する考え方も常に前向きで、彼は裕福であったがいつも小さい者の味方をして、音楽をこよなく愛した人であった。60歳半ばで突然亡くなられたのが大変惜しいと思う。

お別れ会の時に彼の奥さんが「ギター・アンプの上にコーラの飲みかけのビンを置いたら、烈火の如く怒り、怒鳴りつけられた。」とエピソードを語っていたが、楽器を彼ほど神聖な器と考えていたミュージシャンを他に見た事がない。

詳細については、私と江藤 勳氏がPACOにいる時に来て頂ければ『成毛滋−−ジミー・ペイジになりたかった男』のいろいろな話題を提供できると思う。

文 椎野秀聰

 

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